2012年 11月 22日
<ミニコミ誌「YA!!」に投稿した書評> 「日本語と時間—<時の文法>をたどる」 藤井貞和【著】 岩波新書 (2010/12/17 出版)¥840 以前、藤井貞和氏の『「おもいまつがね」は歌う歌か』(新典社)を読み、日本の古層の歌について貴重な情報を得、深く考えさせられた。氏は詩人であり日本文学者でもあり、また日本語学者ともいえるほど日本語への造詣は深い。本書は主に古文の文法を時制の面から考察したものである。日本語はかつて多様な時間経過の表現をもっていた。現代日本語の時制表現の貧困さから見ると目から鱗である。古文が大の苦手であった小生にとって、高校の頃にこういう本と出会っていれば随分と違っていただろうと悔やまれる。小生などよりずっと古文が分かる多くの読者には、本書の奥深さがもっと理解できるであろうと想像される。もちろん小生と同じように古文が苦手の人にも、日本語の時制表現がどう変わってきたかという言葉の歴史の醍醐味は容易に味わえる。あらためて日本語と向き合える、これぞ本物の教養の書! また日本語は本来無アクセント言語(ストレス・アクセントもピッチ・アクセントも希薄という意味)であったのではないかという話も興味深い。 《以下は岩波新書編集部大山美佐子氏の紹介文より引用》 現在の日本語で「過去」と言うと、もっぱら「〜た」という表現を用いますが、古代人は、「き」「けり」「ぬ」「つ」「たり」「り」など、いくつもの助動辞を使い分けて生活していたそうです。「何と豊かで面倒な、かれらの言語生活であることか」、とは著者の弁。 本書では、たくさんの具体例を詩歌や物語作品に採りながら、〈時の文法〉に迫ります。日本語の隣接語としての琉球語、動詞の活用によって時称をあらわす欧米諸言語、逆に活用のないアイヌ語や漢文、さらに係り結びや掛け詞などの技巧にも視野は広がります。また、古代の〈時の助動辞〉は、いかに現代の日本語に引き継がれているのか、あるいはいないのか。現代多用される「た」の成立の秘密、現代詩における時の表現の工夫など、新たな知見が満載の1冊です。
by sakagooch
| 2012-11-22 14:33
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